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東京高等裁判所 昭和28年(ナ)4号 判決

原告 進藤貞幸

被告 山梨県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、「昭和二十七年十月五日山梨県北巨摩郡小淵沢村教育委員選挙の当選の効力に関する原告の訴願につき、被告が昭和二十八年一月二十六日附でなした訴願棄却の裁決を取り消す。右選挙における当選人進藤充方の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は昭和二十七年十月五日施行せられた山梨県北巨摩郡小淵沢村教育委員選挙における選挙人で且つその候補者であるが、右選挙における当選人進藤充方の当選の効力に関し、同月十八日小淵沢村選挙管理委員会に異議の申立をなしたところ、右委員会が同年十一月七日右異議申立を却下したので、原告は同月十日被告に対し訴願を提起したのであるが、被告は昭和二十八年一月二十六日附で右訴願を棄却する旨の裁決をなし、その裁決書はその後原告に交付された。

(二)  然しながら、当選人進藤充方の当選は次のとおりの理由により無効である即ち、

(イ)  同人は小淵沢村固定資産評価員であつて公職選挙法第八十九条により、同村教育委員の選挙についての立候補を制限せられている公務員であるにもかかわらず、立候補届出締切日である昭和二十七年九月三十日右固定資産評価員を辞することなく現職のままで、訴外清水良教による候補者推薦届出によつて候補者となつた。しかも右届出書には選挙の前日である十月四日まで公職選挙法施行令第八十八条の規定による退職申出に関する証明書が添附されていなかつたのである。

(ロ)  よつて原告は同年十月四日小淵沢村選挙管理委員会に対し、進藤充方が候補者となる資格につき異議申立をしたところから気がついた村役場当局者は同日選挙管理委員、進藤充方等関係者と村役場に集つて協議した上、進藤充方が立候補届出締切日である九月三十日に固定資産評価員を退職した如く小淵沢村役場の諸帳簿を調整し同日附の退職申立証明書をあとから、本件候補者推薦届出書に添附したものである。

(三)  進藤充方が選挙の前日まで固定資産評価員を退職していなかつたことは、次の事実によつても明らかである。

(イ)  同年十月四日原告が調査した際における進藤充方の候補者推薦届関係書類には添附されていなかつた固定資産評価員の「退職申立証明書」がその後追加添附されていることは、それ自体九月三十日には進藤充方がまだ固定資産評価員を退職していなかつたことを証明している。

(ロ)  小淵沢村選挙管理委員会主任書記土川喜道が同年十月四日原告等に対し、「固定資産評価員は当選した場合五日以内に辞職すればよい。」と語り、又自ら調査の結果原告等に対し、「進藤充方候補は候補者となる前固定資産評価員を退職しなかつたので原告の異議申立どおりである。」と確答したのである。

(ハ)  進藤充方候補の推薦人清水良教は同月三日「固定資産評価員は当選後五日以内に退職すれば良い。」と語つた事実がある。

(ニ)  小淵沢村選挙管理委員会書記清水愛子は本件候補者推薦届書等の受理、受付などに関する責任を負わされ、同年十二月末退職させられているのである。

(四)  以上のように当選人進藤充方は公職選挙法第八十九条、第九十条、その他これに附随する諸規定に違反し、同年九月三十日適法に候補者となることができないものであるから、その当選は無効である。

よつて本訴請求に及んだ次第であると述べた(証拠省略)。

被告指定代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の(一)の事実、(二)のうち、進藤充方が固定資産評価員であつたが、清水良教が九月三十日進藤充方を本件教育委員選挙に候補者として推薦届出をしたこと、原告が十月四日その主張の異議申立をしたことはいずれもこれを認める。原告主張の(三)の(イ)及び(ニ)の事実は知らない。その余の原告主張の事実は全部否認する。

進藤充方は昭和二十七年九月三十日本件候補者推薦届出書が提出せられるに先きだち、小淵沢村村長進藤高範に対し同村固定資産評価員の辞職届を提出したので、同村長はこれを受理の上即時その辞職を承認し、その旨発令した。従つて進藤充方の候補者としての資格には何等の違法がないから、本訴は理由がないと述べた(証拠省略)。

三、理  由

原告主張の事実中、原告が昭和二十七年十月五日施行の山梨県北巨摩郡小淵沢村教育委員選挙における選挙人で且つその候補者であつたこと、右選挙における当選人進藤充方の当選の効力に関し、原告が同月十八日小淵沢村選挙管理委員会に異議の申立をなしたところ、同委員会は同年十一月七日右異議申立を却下したので、原告は同月十日被告に対し訴願を提起したが、被告は昭和二十八年一月二十六日附で右訴願棄却の裁決をなし、その裁決書がその後原告に交付されたこと、進藤充方が小淵沢村固定資産評価員であつたこと、清水良教が昭和二十七年九月三十日進藤充方を本件選挙の候補者として推薦届出をしたこと及び、原告が同年十月四日その主張の異議申立をしたことはいずれも当事者間に争がない。

而して固定資産評価員は公職選挙法第八十九条の規定により公職たる村教育委員の候補者となることを制限せられている公務員に該当することが明らかであるが、成立に争のない甲第一号証、乙第一、二号証の各記載、証人田中光義、同清水愛子(一部)の各証言を綜合すれば、進藤充方は清水良教から本件教育委員選挙の候補者として推薦届出を受けるよりも前に、昭和二十七年九月三十日小淵沢村助役田中光義を介して同村長進藤高範に対し文書をもつて同村固定資産評価員の辞職届を提出したので、右助役田中光義からこれが報告を受けた村長進藤高範は即時これを受理してその辞職を承認する旨の決裁をなし、その命を受けた右助役田中光義は直ちに同日附達第一二号をもつて願により進藤充方の固定資産評価員の職務を免ずる旨村長名義の辞令書を作成し、その写を進藤充方の使者に交付したこと、然るに右助役田中光義はこの頃事務多忙のため右辞職届の受理につき事務上の手続を執ることを怠り、右書類を自己の手許にとどめ置いたままでいたが、同年十月四日原告から前記当事者間に争のない異議申立があつたため、係職員に命じて九月三十日附で前記辞職届受理等に関する帳簿上の手続をなさしめたものであることが認められる。証人清水愛子の証言中、田中助役から退職届を十月四日受け付けたと言つてはいけないと固く口止めされたとの部分は前掲各証拠と対照して遽かに措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。(記録編綴の小林武、進藤富喜、進藤猪雄作成名義の各上申書はその証拠力が認められない。)勿論原告提出援用の証拠によつては到底原告主張の九月三十日附「退職申立証明書」が後になつて本件候補者推薦届書添附書類として追加添附されたことが認められない。のみならず、当時の公職選挙法施行令第八十八条第四項(昭和二十七年八月政令第三四七号により従前の同法第四項が削除され、第五項以下が一項づつ繰り上る。)の規定は、公職選挙法第八十九条により在職のまま立候補することができない公務員が同法第九十条の規定に従つて立候補した場合、その退職申出をなした事実を証明する文書を立候補届出書類に添附することを要する旨を定めているのであるから、本件の如く進藤充方が候補者として推薦届出を受ける前、適法に固定資産評価員を退職してしまつた場合においては、右公職選挙法施行令第八十八条第四項の規定の適用はなく、従つて右推薦届出書に退職申出証明書ないしは退職証明書を添附する必要は毫もないものと解せられる。それにもかかわらず前記甲第一号証によれば、本件候補者推薦届出書には添附書類として候補者の承諾書選挙人名簿登録証明書の二葉を添附する旨が書いてあるのに、これらの書類の外、さらになお九月三十日附の公務員退職証明書が添附してあつたようであるが、これは恐らく十月四日になつて原告等が前記の如く進藤充方の候補者としての資格につき異議申立をなし、前記施行令第八十八条による退職申出証明書が添附してないと言い出したので、これが必要だと思つた関係者が不必要な退職証明書をあとから関係書類として添附したものであることが弁論の全趣旨から推察できるから、かかる退職証明書が添附されたことにより、前記辞職届の提出及びその受理、退職の発令までが事後に作成されたものとなすべきではない。又原告主張の(三)の(ロ)及び(ハ)の事実が仮にあつたとしても、それは恐らく進藤充方の退職の事実を知らず、選挙に関する法令を誤解していた結果であろうし、直接進藤充方の辞職届の受理承認及び退職の発令につき当時全然関与しなかつた者の間における言辞であるから、これを以て直ちに前段認定を覆す根拠となすに足りない。又原告主張の(三)の(ニ)の清水愛子の退職が本件とは関係がないことは証人清水愛子の証言により明らかである。

然らば進藤充方の本件候補者としての届出は何等公職選挙法の関係法令に違反せず、同人は本件選挙の候補者としてその資格に欠けるところないから、その当選は有効である。従つて原告の訴願を棄却した原裁決は正当であるから、本訴請求は遂に理由なきものとしてこれを棄却すべきものとする。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺葆 牛山要 野本泰)

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